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2006年2月 7日 (火)

キッチン

吉本ばななの作品について書く訳ではない。なかなかに面白い小説ではあるが。文字通りのキッチン、即ち台所について書く。いきなりだが、私にとってはキッチンという物は憎むべき存在だ。

これまでに結構様々なバイトをしてきたが、二十歳前後ぐらいの時期には主に飲食業のバイトをしていた。通算二年半から三年くらいはやったと思う。レストランの厨房で働いた事もあるし、餃子の王将で餃子を焼いた事もある。祇園のラウンジ・バーでバーテンダーの真似事をした事もある。その結果、私は一つの残酷な事実と遭遇する事になった。そういったバイトをしていく中で、薄々気付いてはいたものの自分ではなかなか認めたくなかった事実だ。もはや認めざるをえない。それは、私には飲食業の才能が微塵もない、という事だった。

関西弁で言うと「ドンくさい」という所だろうか。キッチン内での効率的な身の処し方がわからなかった。根源的に料理や酒を作る事に興味がないからだろうか(食べたり飲んだりするのは好きだ。かなり好きだ)、レシピや店内の食器の位置などがまるで覚えられなかった。故にオーダーが通った時には一瞬狼狽する。最も効率的な動きを考え、シュミレーションしようとするが、それは暗中模索のまま体を動かし始めなくてはならなくなる。私の観念の流動よりも一歩早く世界が回りだすのだ。結果、オロオロする。わかっている人から言わせれば、まさしく「考えるな、感じろ」なのだろうが、私は考えてしまう。休むに似たり、そういう事だ。そしてそういう事態に陥った時に、ここぞとばかりに姿を現わすのは、私の生来のいい加減な性分だ。「よくわかんねえし、まぁこれでいいか」という啓示が私の脳裏に光臨し、適当にその場を繕おうとする。そして当然、その浅薄な企みは表象世界へと顕在化し、バイト先の店長やら先輩やらに怒られる。心の中では「うへえ、怒られちった」てな訳だ。

という事で、キッチンの前に立つと何だか怒られそうな気に自動的になるので、私はキッチンが嫌いだ。そんな私も自分の家ではよく料理をするが、すると言っても米を炊いて納豆ご飯を作るとか、サッポロ一番のインスタントラーメンを作るとか、大半はそんなものだ。全ては貧困が原因だ。私が多少に裕福ならば、毎日外食する。間違いない。

そんな自炊生活の中でも、少しぐらいは私なりに工夫をする。向上心のないやつは馬鹿だ。今日は、サッポロ一番のみそラーメンと塩ラーメンをブレンドして、一杯のラーメンを作った。「ふえるわかめ」ともやしを少し入れて、最後に卵を落とした。これで何となく体裁を繕ったような気になって、満足して食べた。決してとびきり美味い訳ではない。気の持ちようという事だってあるのだ。

寝る前には一杯だけビールを飲む。最近少々発泡酒に飽きてきた。たまにはギネスの生でも飲みたいものだ。

キッチンには使い終わった食器が、まるで義務と権利を主張するかのように厳然と存在を主張している。わかっている、わかっている。洗い物をしなければ。キッチンは再び私を憂鬱にする。私は今日は洗い物をしない事に決めた。

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