「愛について」
さっきバイト先に電話した。「すいません、休みます」と。 熱は一向に下がる気配を見せないし、私の体調は昨日に比べてまるで良くなっている訳ではない。 バイトを休むと言った後には、小さな敗北感と大きな背徳感が残る。私はよく高校をサボっていたが、その時の感じに少し似ている。 という事で病は私に至福の暇をもたらしたので、その暇は出来る限り無駄に使いたい。私はよく一日が35時間あれば、と思うのだが、無駄をカットしていけば一日は24時間で事足りる。問題は私が無駄をカットする気がさらさらない、という所にある。
前回の文章で矢野顯子について少し書いた。続きを少し。
彼女の歌う歌でとても好きな曲が何曲かあって、その内の一つを紹介したい。著作権の問題は無視する。 加川良(「教訓」なんかを歌ってた人ですね)が作った「愛について」という歌だ。以下、歌詞を紹介する。
「愛について」
壁に二つの影が映ってる
子と母の二つの影が映ってる
二人は自転車をこいで
今家に帰る所
子は母に話しながら
母は子に頷きながら
子に父はなく
母に夫はいない
父も夫もいない夜道を
二人はゴムまりのように弾んでいく
僕には愛が二つのゴムまりになったように見える
父のいない子は愛について考え続ける
夫のいない母も愛について考え続ける
愛について考える事で二人は結ばれている
道端である日
星のように遠いはずの男とすれ違う
愛の事を考えながら
子と母と男は道端ですれ違う
星のように遠い場所から
男はその夜
子と母に電話をかける
愛の事を考えながら
子と母は生きて行く
愛の事を考えながら
男もまた生きて行く
遠く離れた場所にいて
どちらも愛について考えている
「つかまえた」と壁に映った子の影が言う
「つかまえた」と壁に映った母の影が言う
子と母は自転車をこいで
家へ帰って行く
「つかまえた」と呟く二つの影を
道端の壁の上に残して
愛の事を考えながら
子と母は生きて行く
愛の事を考えながら
男もまた生きて行く
遠く離れた場所にいて
どちらも愛について考えている
と、いう事だ。矢野顯子という人には日本の近代詩を歌い上げる、類い稀なる才能がある、と私は感じる。私の好きな近代詩人の一人に辻征夫(つじゆきお)という詩人がいるが、彼の代表作の一つである「かぜのひきかた」にも矢野顯子がメロディーを付けて歌っているらしい。残念ながら私はそれを聴いた事はないのだけれど。 いずれにせよ、この「愛について」には、都会の一角の冷ややかな孤独と、その孤独ゆえに繋がりを求める切ない人間同士の姿が、「愛」という言葉のもとに描き出されている。佳作である。こういった世界観は、はっきり言って好みである。故に点のつけ方はだいぶ甘くなる。許してほしい。 壁に残された二つの影は、そこで何を思ったんでしょうね。
| 固定リンク
« 戯言 ヨノナカバカナノヨ | トップページ | 散歩 »
「音楽」カテゴリの記事
- 市川修 in New York(2017.10.31)
- ピアノ教室ブログ更新(2017.09.29)
- Abdullah Ibrahim 2015年の来日のこと(2015.10.27)
- 短期集中連載「Abdullah Ibrahimの魅力に迫る~第四回:2013年にAbdullah Ibrahimを観に韓国まで行った時のこと」(2015.10.07)
- 短期集中連載「Abdullah Ibrahimの魅力に迫る~第三回:Abdullah Ibrahimのルーツを辿る」(2015.10.06)
コメント