散歩
雪が降ったらいいな、と書いたら昨夜は本当に雪が降った。何となく降りそうな予感はあったのだけれど、まさか本当に降るとは。 暗くなってから散歩に出た。もちろん体調は悪いんだし、家で大人しく寝てるのがベストなのだが、どうしても三十分ばかり、傘をさして表を歩きたかった。
街灯の明りがいつもより明るく見えて、家を出てからの見慣れた風景がいささか奇異に映る。雪が光を跳ね返すからかもしれない。ふと頭上に目をやると、そこには漆黒の空が浮かび、そこからこぼれ落ちるかのように雪が舞っている。決して一定ではない、不規則で不完全なリズムで、虚空の雪は地面に触れる。雪は自らの白き肢体を保とうとするが、やがてそれは元の水へと戻る。君達がその白く美しい姿を保っていられるのは、ほんの刹那の事なのだ。私は靴の裏で彼らを踏み躙りながら歩みを進める。 時折、近くを車の通り過ぎる音が聞こえる。一様にさほどスピードを出している訳ではないのが、音でわかる。それは、こんな雪の晩にスピードを出して車を運転するのが危険だから、果たしてそれだけの理由なのだろうか。私は知らない。 気がつくと私は賀茂川の傍らにいた。眼前に激しい水の流れが見える。その水流の上を舞う雪の姿は、依然として緩やかであり何かためらいがちだ。遮られ、限定されていた視界が急に開けたかのようだ。 傘をたたむ。幾分熱を帯びた私の頭上に雪が落ちるのが冷たくて心地良い。そのままじっと一分ばかり、目を閉じる。それまでよりも更に深い暗闇が私を包むのと同時に、雪の放つ微かな音が、輪郭をほんの少しだけ明確にする。私の体に雪が触れる時、微かだが確かに音がしている事を、私はそこで初めて知る。 一人遊びに飽きてきて、帰る事を決意する。帰り道はわかるか?わかる。「もと来た道を戻ればいいのだ」 そうだ、もと来た道を辿れば、私は決して迷う事はない。 帰りに缶ビールを買おうとしたら、午後11時をまわっていて自動販売機が使えなかった。まあ良い、取り分け飲みたかった訳でもない。ならば家に帰って暖かい緑茶を飲もう。そう考えていた。
雪はいつの間にか止んでいた。 無論、私の頭上の雪は全て融けていた。
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