A Child is Born
午前三時半、一仕事終えて一杯飲っている。もちろん、いいちこと緑茶のリアル負け犬コンボ。普段と若干異なるのは、1リットル100円の紙パックの緑茶をコンビニで買ってきた事くらいか、お茶っ葉を切らしてしまったので家でお茶が淹れられなかったのだ。
つまみが今日はちょっと良い。韓国海苔だ。知り合いから頂いた。口に入れた瞬間にむせ返るほどの磯の香りがする。旨い。決して塩辛過ぎない絶妙な塩味が焼酎をいざなう。
焼酎、海苔、焼酎、海苔、焼酎、焼酎、海苔、焼酎。
破壊と創造の無限の輪廻すら私の脳裏をよぎる。昼の光に夜の闇の深さがわかるものか。人差し指に少し付いた塩をペロリと舐めるのさえ旨い。
最近色々な事があるが、今日はとても嬉しい事があった。午前一時過ぎ、今から約三時間前に最も古い友人から電話が掛かって来た。川崎マサクニ。私は容赦ない、実名を出すぞ。ファーストネームをカタカナにしているから大丈夫だ。今も東京、私の故郷小岩で暮らす、物心ついた頃ぐらいからの幼馴染みだ。彼は大変だった。中学生の時は私の喧嘩を止めるのは彼の役目だったのだから。野球部で体力があるからという理由と、私と親しいからという理由で。私ならそんな役割は一回につき一万円もらえたとしても御免蒙る。有り余る体力と、訳の分からない鬱屈としたエネルギーの溜まった中学生同士の喧嘩など、考えただけでぞっとする。中学生は大人しく砂浜あたりを全力疾走でもしながら「セックスしてぇぇぇぇ!」かなんか叫んでいればいいのだ。人様に迷惑をかけてはいけない。 一緒にインドを旅した事もある。私がインド行きの切符を買いに旅行代理店に行くまさにその日、彼が私に「仕事を辞めた」と電話を掛けて来たので、「じゃあ今日ちょっと錦糸町(旅行代理店があった)付き合ってくれ。通帳とパスポート持ってな」と言って、そのまま半ば拉致のように彼をインドに同行させた。乗換えで二時間ほど滞在したバンコクのドン・ムアン空港で「俺、何で知らねえ間に外国いるんだよ、意味わかんねえよ」と言って笑っていた彼を思い出す。確かあの時私は機内サービスの酒を飲み過ぎて、既に吐きそうになっていたな。もっとも旅を始めて一か月だか二か月だか後に、私は彼に突然「俺はちょっとパキスタン行ってくるな」と言って、バラナシという街に彼を置き去りにしてしまったのだが。その数か月後に彼とはタイで再開した。男の子は何だかんだで丈夫に出来ている物なのだ。
さあ、そんな彼からの深夜の電話は、「子供産まれた」。カミさんがハラボテというのはもちろん知っていたが、今日産まれたか。死ぬ命があれば産まれる命がある。そしてもう少し、いや、まだまだ生き延びなければならない命もある。そうだろう?その通り。
私はすぐに「男か、女か」と聞いた。彼は「男だ」と答えた。「名前は決めてるのか」と聞いた。「大体」と答えた。いくつか考えてあって、あとは顔を見て決めるつもりだったらしい。また彼は出産に立ち会ったらしく、男という生き物の無力さを痛感していたようだ。「何にも出来ねえし、男はダメだなあ」彼は笑いながら言った。その通り。私も男はダメだと思う。もちろんそれ以上にダメな女も、ごく稀にいるが。 私が彼に「春に東京に少しだけ帰る。お前のガキの顔も見たい」と言うと、彼は少しだけ興奮した声で「楽しみにしてるからまた連絡をくれ」と言った。多分、他の人にも今すぐ伝えたいだろう事が声の調子から分かったので、少しだけ私の近況報告をして電話を切った。
マサクニ、おめでとう。今度またヤマを交えて小岩で飲もう。内蔵が裏返るぐらいまで飲むぞ。勢い余って深夜の喫茶店のガラスを割ってしまうぐらいまで飲むぞ。覚悟しとけよ。
私は四枚目の韓国海苔を食べ終えた所だ。大丈夫だ、百枚あるのだから。焼酎も随分と飲んだ。今はちょうど朝の五時だ。もうすぐ夜が明ける。そうだ、必ず夜は明ける。明るい街角で、また再び会えるのだ。誰もがその日を待っている。
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コメント
「全力疾走」で参りました。
うーん。そうやって叫びたかったんだけど、そう叫ぶには鬱屈しすぎていたんだ、私。
叫びはしないけど、女子の水泳の時間、教室にもどって大喜びで着替えの中のパンツを探り出して狂喜乱舞してる奴がいました。
ぼくはその開けっぴろげな正直さがまぶしかったなあ。
投稿: ぽくぽく | 2006年1月24日 (火) 01時39分
ぽくぽくさんへ
コメントありがとうございます。昔の事を思い出すと、いちいち恥ずかしくなります。恥ずかしくなる、というか自分をみっともなく感じるというか。でも、だからコミカルに描けたりもする。皮肉なものです。
投稿: 福島剛 | 2006年1月25日 (水) 12時35分